人材獲得競争が激化する中、せっかく内定にまでプロセスを進めた応募者から辞退の申し出を受けるケースは珍しくありません。
しかし採用活動において『内定承諾率』を高めることは、採用活動において最高クラスに位置するミッションの1つです。
内定承諾率を高めることで、より高いコストパフォーマンスの実現や採用活動の効率化が期待できます。
とは言え、「様々な施策を打ち出してもなかなか内定承諾率が高まらない」「なぜ内定承諾率が低いのか分からない」という企業・人事ご担当者様も多いかと思います。
そこで本記事では、150社以上の採用をみてきた筆者が、知っておきたい内定承諾にまつわる情報をデータを交えて紹介すると共に、内定承諾率を向上させる方法や内定承諾率を高めた企業の事例などをご紹介します。
- 内定承諾率の低さが課題であり、改善するための方法を模索している
- 内定承諾率を高めた成功事例を知りたい
- 内定承諾率を高める具体的な施策を知りたい
上記に該当する、企業・人事ご担当者様はぜひご一読ください。
中途採用における内定承諾率の平均値
まずは中途採用における、内定承諾率の平均値をご紹介します。
株式会社マイナビが公表した『中途採用状況調査2023年版(2022年実績)』に記載されているデータによると、2022年中途採用の内定辞退率は7.9%であり、前年から3.2pt減少したそうです。
つまり、内定承諾率は92.1%であり、中途採用の内定者のうち9割以上もの応募者が内定を承諾しています。
なお中途採用の内定辞退率は、以下の通り2019年から減少を続けています。
- 2019年:22.1%
- 2020年:15.7%
- 2021年:11.1%
- 2022年:7.9%
引用:株式会社マイナビ『中途採用状況調査2023年版(2022年実績)』
新卒採用は採用時期が決まっており、就活生は一斉に20社以上の企業にエントリーを行います。そのため新卒採用における内定辞退率は、30%前後と言われています。
その点、中途採用はある程度業界・職種を絞り転職活動を行う点や、同タイミングにエントリーする企業数も就活生とは数が異なります。そのため、内定辞退率が高くなる傾向があります。
しかし上記で紹介した中途採用の内定承諾率の平均値よりも自社の内定承諾率がはるかに低い場合は、改善を検討する必要があるでしょう。
内定承諾率算出の方法
内定承諾率は、内定を出した応募者の数に対し、承諾した応募者の割合を示した数です。
内定承諾率の計算式は次の通りです。
内定承諾率=内定を承諾した応募者の数/内定を通知した応募者の人数×100
まずは上記計算式に則り、自社の内定承諾率を算出してみましょう。
内定辞退の理由
内定承諾率を高めるためには、内定辞退の理由を把握し、内定辞退となり得る要因の排除が不可欠です。
エン・ジャパン株式会社が運営する人事担当者向け中途採用支援サイト『エン 人事のミカタ』が求職者2,605名を対象に行った「選考辞退」についてアンケート調査では、内定取得後の辞退理由を問う質問おいて、次のような結果となりました。
- 第1位:勤務地・給与など条件の折り合いがつかなかった(45%)
- 第2位:社風が自分には合わないと判断した(32%)
- 第3位:他社での選考が通過した・内定が決まった(31%)
- 第4位:求人情報や面接時の条件と齟齬があった(29%)
内定辞退者の多くが『勤務地・給与など条件の折り合いがつかなかった』と回答していることから、募集要項・条件・報酬面において「妥協しない」「複数内定からより良い条件を選ぶ」といった売り手傾向の強い市場の様子が応募者の動向にも表れています。
また、第2位には『社風が自分には合わないと判断した』という回答が続き、選考の過程で社風を見極められず、最終的に内定のタイミングで辞退を選択するケースが多いようです。
参考までに、同アンケートの面接辞退理由と選考辞退理由をご紹介します。
<面接辞退理由>
- 応募後に再考し、希望と異なると判断した(41%)
- 希望に反したスカウトメールだった(32%)
- ネット上で良くない評判や噂を聞いた(30%)
<選考辞退理由>
- 仕事内容が希望と合わなかった(44%)
- 勤務地・給与など条件が希望と合わなかった(40%)
- 面接での説明と求人情報に祖語があった(36%)
内定辞退理由と面接辞退理由・選考辞退理由では、それぞれ辞退に至る要因が異なります。
面接辞退理由からは、興味のある企業に一通り応募し、書類選考が通過したタイミングで再度企業を比較・吟味している様子が伺えます。
選考辞退においては、希望のミスマッチが要因として上位にあがりました。
また辞退者のうち、約3割が内定取得後に辞退の意を示しています。
本結果からは、相互の理解を深め切れていない・自社の魅力を伝えきれないが故に、採用競合と競り負け内定辞退に至っているとも推察できます。
内定辞退の理由は企業ごとに異なります。
内定辞退率の高さが課題になっている企業は、辞退者へのヒアリングを行い、内定辞退の理由から自社の課題を究明していく必要があるでしょう。
中途採用の内定承諾率を向上するために意識すべき3つのポイント
続けて中途採用の内定承諾率を向上させるために意識すべきポイントを、多くの企業様の採用を支援してきた筆者の経験から3つに絞りご紹介します。
ぜひ次の3点は、内定承諾率向上に向けて意識してみてください。
- 内定辞退に至った要因を探り、選考プロセスの位置づけ・施策を明確にする
- 選考期間の短期化を検討する
- クロージングを工夫する
さらに必要に応じて、選考プロセスの練り直しや新しい取り組みを検討してみてください。
内定辞退に至った要因を探り、選考プロセスの位置づけ・施策を明確にする
内定辞退率を向上するためには、まず『内定辞退に至った要因を探ること』と、その上で『選考プロセスの位置づけ・施策を明確にすること』が肝要です。
内定辞退に至った要因を探る方法は、内定辞退者へのインタビューが効果的です。筆者が採用を支援した企業でも内定辞退者インタビューを行い、「どのような点がネックとなり辞退に至ったのか」「内定承諾を決意できなかったのは何が足りなかったのか」を徹底的にヒアリングしました。
内定辞退者のリアルな声を聴くことで、社内では気が付かなった原因や不足を突き止めることができます。
さらに内定辞退の要因から、各採用プロセスの位置づけを再度見直し、最適な対策を立案しましょう。
例えば、『勤務地・給与など条件の折り合いがつかなかった』『求人情報や面接時の条件と齟齬があった』という理由に対しては、募集時の条件が求職者に明示できていなかったことが考えられます。
求人広告サイトへの掲載内容の見直し、求める人材に見合った条件の再設定が必要になるでしょう。
また『社風が自分には合わないと判断した』という理由に対しては、採用ブランディングが弱いことが可能性として考えられます。SNSや自社の採用サイトから社風や在籍する社員の人柄・働き方などの情報を発信し、どのような会社なのかをしっかり広めていく必要があります。
『他社での選考が通過した・内定が決まった』等の声が多い場合は、「カジュアル面談」などを導入し、応募者に対して自社の魅力をしっかりと伝えグリップを握っていくことが大切です。
上記例のように各採用プロセスの意味・目的を明確にし、忠実に実行してみましょう。
選考期間の短期化を検討する
株式会社マイナビ『中途採用状況調査2023年版(2022年実績)』のデータによると、2022年度の中途採用の選考期間は、募集開始から最短2カ月未満で採用となった職種が前年より増加したそうです。
オンライン面接の定着により、時間や場所の制約が軽減され効率的に選考が行えるようになったため、期間が短期化したと考えられます。
さらに長期に渡る選考は応募者の負担も大きくなり、「早く内定を得た企業に入社を決める」という求職者の心理動向も選考期間が短期化している要因の1つと言えるでしょう。
また選考が長くなるほど、内定承諾率が低下するというデータもあります。実際に筆者がこれまでに採用を支援した企業の中にも、1次選考をオンライン化や経験者の場合は面接プロセスを1回分減らす取り組みを行い選考期間の短縮を図った結果、内定承諾率が向上したケースもありました。
必要以上に選考期間が長期に渡る場合、ぜひとも選考期間の見直しを検討しましょう。
引用:株式会社マイナビ『中途採用状況調査2023年版(2022年実績)』
クロージングを工夫する
内定承諾率が低い企業の多くは、クロージングの甘さが課題として考えられます。
内定後は、入社までの懸念・不安材料を内定者と共に1つずつ解消していく必要があります。
そのためにも内定後は、適度にメールや電話でのフォローを行うと共に「カジュアル面談」等の場を用意し、内定者の不安や本音を引き出しておく必要があります。
内定者の不安や本音を引き出しておくことで、内定者の考えや想いに沿ったフォローができるでしょう。更に無事に入社に至った後も、配属先の上司にあたるメンバーに入社前にヒアリングした不安や本音を共有しておくことで、早期離職に至る要因を事前に排除することもできるでしょう。
転職は今後の人生を左右する、大きなターニングポイントです。
そのため内定者は入社まで気持ちが不安定になり、普段なら気にも留めないような情報や些細な企業の対応にも心が揺れてしまいます。
内定者には面談や各種フォローを通じて「この会社で活躍のビジョンが描ける」「この会社で自身の未来を創っていきたい」という想いを芽生えさせていく取り組みや行動を積極的に行いましょう。 結果として、内定承諾率にも大きく寄与していくことでしょう。
内定承諾率を高めた成功事例
最後に内定承諾率を高めた成功事例を3社ご紹介します。
- 株式会社ジャパングレイス
- 株式会社メルカリ
- 株式会社10X
上記は、長年採用を支援してきた筆者からみてもぜひ参考にしていただきたいと感じた企業です。
内定承諾率に悩む企業・人事ご担当者様は、成功事例を知ることで目指すゴールが定まるでしょう。
株式会社ジャパングレイス
画像引用:株式会社ジャパングレイス
株式会社ジャパングレイスは、地球一周船『ピースボート』の船旅を企画・実施する旅行会社です。
「世界一周」「船旅」というイメージからの憧れ応募が多く、イメージだけが先行した結果最終的に内定辞退に至るケースが多かったそうです。
内定辞退率を低減させた施策として、求人情報サイトに『仕事の厳しさ』を赤裸々に公開しました。
イメージや憧れに一矢射るほどのリアルな情報を開示したことで、求職者も仕事の厳しさ・大変さを理解した上で応募に至るようになり、大幅に内定辞退率を下げることが出来たそうです。
株式会社メルカリ
画像引用:株式会社メルカリ『メルカン』
フリマアプリの「メルカリ」を運営する株式会社メルカリでは、各選考プロセスの位置づけを明確にしています。
各選考プロセスの意味や役割を明確にしているからこそ、ステップごとに1つずつ内定辞退となり得る不安を払拭し、入社に繋げています。
1:採用説明会
⇒メルカリやメルペイの組織そのもの、エンジニアリングチームの説明。
2:Meetup
⇒採用候補者が実際に働いている人に興味を持ち、「応募してみようかな」という気持ちを醸成することを目的に実施。
3:Tech Talk
⇒技術的な露出とアピールを目的に実施。
4:外部イベント登壇
⇒ブランディングの向上に繋げることを目的に実施。
5:Gopher道場
⇒プログラミング言語Goの実践的な内容を、完全無料で体系的に学べる場を提供し、コミュニティやブランディングに繋げている。
6:Tech Blog
⇒技術的な露出、会社のブランディング寄与を目的に実施。
また『採用人数』をKPIに置いていない点も、同社の採用活動の特徴です。
株式会社メルカリでは、その理由を下記の通りに挙げています。
1:カルチャーがばらつく
優秀だけどカルチャー合わない人を採用してしまう。
2:閾値が下がる
忙しくて人的リソースを欲しているということもあり、すぐに採用してしまう。
3:給与のねじれが起こる
前職の給与が高く、スキルと給与が合わない。そのため、給与のねじれが起こる。
KPIに置く項目を変えるだけでも、課題が解消されることがあります。
『採用人数』をKPIに置かなくなった株式会社メルカリは、カルチャーフィットした人材・応募者への細やかな対応ができるようになりました。
内定承諾率が向上する土壌が形成された事例といえるでしょう。
株式会社10X
画像引用:株式会社10X リクルートページ
株式会社10Xは、エンジニア採用において内定承諾率を20%から90%まで改善させた成功事例を持つ企業です。
株式会社10Xが内定承諾率改善に向けて行った施策は主に2つあります。
1つ目は採用プロセスの見直しです。
株式会社10Xでは、試験的に一緒に働いてもらう“トライアル”というプロセスを設けていましたが、引手数多のエンジニアの場合、“トライアル”があることにより、選考に踏み切るハードルが上がり、優先順位が下がってしまうという課題がありました。
そのため選考プロセスを見直し、確認したいポイントを絞り短時間で技術や人柄を見極めるプロセスに変更することで、選考期間を短縮させました。
新たに応募者とのコミュニケーションが減ってしまうという課題が上がったものの「なぜ10Xに来て欲しいと思っているのか」をしっかり伝え、納得してもらえるようなコミュニケーションを意識し、内定承諾率の向上を図りました。
2つ目の施策は、エンジニアがカジュアル面談を担えるよう変革を実施したことです。
同社のポイントは、誰もが不安を抱えずにカジュアル面談をできるよう「カジュアル面談プレイブック」や、受け答えのhow-toまとめた「想定問答集」を作成した点です。
エンジニアが実施するカジュアル面談を通じて、スキルや価値観を擦り合わせることで「こういう活躍の仕方ができそう」「何を達成できたら事業が伸びそう」と、応募者は入社後の具体的なイメージを抱くことができ、内定承諾率の数字にも反映される結果となりました。
引用:株式会社10X
中途採用の内定承諾率改善 まとめ
採用競争が激化する中途採用の売り手市場において、内定承諾率の改善は重視すべき項目の1つです。
今回ご紹介した内定辞退の背景を理解し、応募者が抱く心理状況を考え選考プロセスや内定フォローを変えていく必要があるでしょう。
各選考プロセスの目的を再度明確にし、応募者の不安・本音を引き出すことで効果的なアプローチができるようになるはずです。またクロージング時にしっかりと『入社後の活躍イメージ』を描かせることが出来ていれば、応募者自身も自身の選択に対し納得感が得られます。
結果として辞退することもなくなり、内定承諾率も高まるでしょう。
筆者の経験では、内定承諾率改善の施策は、他の採用課題改善にも通じます。ぜひ採用に課題を持つ企業・人事ご担当者様は、『内定承諾率』にも着眼し、必要に応じて自社の採用方法を振り返ってみましょう。
改めて応募者の視点から魅力を訴求できているのかを見直すことで、新たな気付きや採用成功の道が拓けてくるかもしれません。