人材獲得競争が激化する中途採用において、従来の求人広告媒体や人材紹介などの手法だけでは、人材獲得が難しくなりつつあります。
多様化する中途採用手法の中でも、多くの企業に注目されている『SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)』を用いた採用手法をご存知でしょうか。
元々は、ITリテラシーの高いZ世代(新卒採用)に向けた手法でしたが、中途採用でも採用広報・採用ブランディング要素を兼ねるツールとして運用を開始する企業が増えています。
しかし一方で、SNSツールをどのように採用にリンクさせるのかイメージが湧きづらいかもしれません。
そこで今回は、SNS採用を実施するメリットや運用時の注意点、SNS採用がマッチする企業の特徴をお伝えします。
- SNSと採用とのリンク方法が分からない
- 自社の中途採用にSNS採用が有効か知りたい
- SNS採用を実施することでどのようなメリットを得られるのか知りたい
上記のような課題や疑問を持つ企業・人事ご担当様はぜひご一読ください。
SNS採用の運用メリットは何か?
SNS採用の運用を検討する中で、「他の採用手法とSNS採用の違いが分からない」という企業・人事ご担当者もいらっしゃるかと思います。
本項目では、他の採用手法にはないSNS採用ならではのメリットをお伝えします。
社風や従業員の様子などのソフト情報を発信できる
SNS採用のメリットの1つに気軽に社風や代表をはじめとするメンバーの人柄など、求人表からは発信しにくい企業のソフト情報を発信しやすい点が挙げられます。
求人票では、事実に基づいた定量的な情報(業務内容・給料・福利厚生など)しか発信することができません。
その点、SNSを用いることにより、職場のリアルな雰囲気や人間関係、仕事の取り組みなども発信できます。
特に近年は、就活生のみならず転職希望者も「社風」を重視する傾向があります。
採用広報支援サービス「SOMERISE for HR」を提供するサムライト株式会社が行った『入社前と入社後のギャップから生まれる課題を徹底調査』では、「転職活動をする際、企業が発信している情報のうち、どんな情報に注目しましたか?」という質問において次の回答結果が得られています。
- 福利厚生:48.7%
- 労働環境:43.7%
- 社風・カルチャー:43.1%
- 業務内容など業務イメージ:46.1%
業務内容や給料に関心が強そうなイメージのある転職希望者ですが、実態をひも解くと福利厚生に代表されるような待遇面がトップに上がるものの、僅差で「労働環境」や「社風・カルチャー」が並びます。
特に「社風・カルチャー」においては新卒採用の23.8%に対し、約20ポイントもプラスになる結果となりました。
参考:サムライト株式会社『入社前と入社後のギャップから生まれる課題を徹底調査』
上記データからも社風・カルチャーをはじめ、労働環境や働く社員の様子などを発信することは、転職希望者のニーズにマッチすると考えられます。
このようなソフト情報を発信するツールとしてSNSは他の採用媒体よりも優れており、かつ利用敷居が低いという利点があります。
低コストで運用できる
SNSツールの多くは、無料でアカウントの開設ができます。さらに限られたカテゴリーの中で情報の掲載を求められる求人サイトと違い、何度でも好きな内容を発信できます。
また1つのツールに限らず、いくつでも運用・アカウントの開設が可能です。
アイデア次第で活用の幅が無限に広がる点は、SNS採用ならではのメリットでしょう。
拡散力が高く、企業の認知度や採用活動情報を広げられる
SNSの拡散力を利用すれば、企業の知名度を一気に上昇できる可能性もあります。
また適正な運用を続けていれば、転職潜在層や自社のアピール・情報が行き届かないような求職者にも情報を届けることができるでしょう。
企業の認知度は、母集団形成や次選考への推移にも大きく影響します。
SNSを活用することで、他企業の求人情報に埋もれてしまう、ブランド負けしてしまうという課題解決の一助になるかもしれません。
実際にエン・ジャパン株式会社が運営する転職サイト『エン転職』が行った調査によると、「転職活動中、企業に関する「情報収集」は、どのように行いますか?」という質問に対し、次のような回答結果となりました。
- 企業ホームページ:88.7%
- 口コミサイトや口コミ検索:71%
- 採用ホームページ:70.4%
- 企業の運営するSNSやblog:16.8%
上位3つの項目については、従来より多くの転職希望者が企業研究や企業の情報収集を行うにあたって、使用していたツールです。
割合は減るものの、企業の運営するSNSやblogを通じて企業情報をチェックしている候補者も一定数いることが伺えます。
そもそもSNSやblogを運用していない企業、反対に普段からSNSを使用していない回答者も含まれていることを鑑みると、SNSやblogを運用している企業とSNSユーザーに絞った場合、転職活動において情報収集に「企業の運営するSNSやblog」を利用する割合は、もう少し増えると考えられます。
SNS採用を始める時の手順
SNS採用を始める時の手順は次の通りです。
- 自社採用におけるSNS採用の位置づけ(目的)を明確にする
- 採用対象となるペルソナに沿ってSNS採用を通じて発信したい対象を決める
- 発信する方向性(コンテンツ内容)を決める
- 利用するSNSツールを選定する
- 運用ルールを決める
- 配信開始
上記手順はSNS採用を始める時の一般的な手順ですが、まずはベーシックな方法から基盤を創り、SNS採用を推進する中で自社の採用に沿うようにカスタマイズしていきましょう。
➀自社採用におけるSNS採用の位置づけ(目的)を明確にする
SNS採用の成否を分けるポイントは、SNS採用の位置づけです。
自社の採用において他の手法では解決・改善できない課題や叶えたい目的を果たすことがSNS採用のゴールとなります。
ただ闇雲に情報発信を行ってしまうと、採用サイトや他の媒体に掲載している内容と重複し、工数ばかりが嵩んでしまうことも考えられます。また本来望むSNS採用の効果を得られないばかりか、自社の採用方針がブレてしまう恐れもあります。
このように、SNS採用の位置づけの明確化は、SNS採用を運用する時の軸にもなります。SNS運用を検討する際は、必ずSNS採用の位置づけ(目的)を定めましょう。
➁採用対象となるペルソナに沿ってSNS採用を通じて発信したい対象を決める
次にどんなターゲットに情報を届けたいのかを決めましょう。
SNS採用を通じてどのような人物像に発信をしていきたいかを明確にしておくことで、後のSNSツールの選定や発信する内容も自然と定まります。
➂発信情報の方向性(コンテンツ内容)を定める
ターゲットに合わせて、発信情報の方向性(コンテンツ内容)を定めましょう。
下記はSNS採用で発信されている情報の一例です。
- 新規事業の取り組み
- 社員インタビュー
- 企業イベント
- 内定式や入社式のレポート
- 実際の業務内容
- 社内風景の紹介
- 採用イベント情報の発信 など
後にも詳しく紹介しますが、SNSで発信する情報は、“SNSだからこそ”の情報が求められます。コーポレートサイトや他の求人媒体では伝えきれない『SNSだからこそ伝えられる内容』を意識して発信情報の方向性やコンテンツ内容を思案してみてください。
➃利用するSNSツールを選定する
ただ人気のSNSツールを使えば良いというものではありません。SNSの特徴や採用ターゲットに合わせて、自社の需要にマッチするSNSツールを選定することがポイントです。
次の3つを基準をベースに、自社に合うツールを選びましょう。
- ターゲットの年齢層
- コンテンツ内容
- 配信周期
➄運用ルールを決める
運用ルールを決めておくことで、炎上リスクの防止とムラのない継続的な運用が可能になります。
SNSは拡散力が強い一方で炎上のリスクもあります。また配信周期や担当者を決めておかないと、配信内容の質や頻度の低下に繋がります。
事前に発信内容を擦りあわせ、メンバー同士でリスク管理を行うことで、炎上リスクを最小限に留めることができるでしょう。
また継続・計画的な運用を行うためには次の4つを決め、さらに事前に配信スケジュールを立案・決定する定例ミーティングの時間も設けておきましょう。
- 配信曜日
- 配信時間
- 配信周期
- 配信内容(コンテンツ内容)
⑥配信開始
➀〜➄までの工程を経て、配信へと着手します。
配信を開始した後も都度の軌道修正は必要です。
もちろん実際に配信着手した後に、採用の方向性・コンセプト・ターゲットが変わることもあるでしょう。また新たな課題が発生する場合もあります。
状況に合わせて、柔軟に施策や取り組みを変化させていきましょう。
SNS採用は即効性が低く、すぐに目に見えた効果は期待できません。
しかし、しっかりと基盤を創り着実に運営することで少しずつ成果に繋がります。
反対にきちんと戦略的に手順を追って準備を進めないと、無駄な工数ばかり費やしてしまう可能性も考えられます。
まずは運用に向けて手順を整理し、1つずつ準備を進めましょう。
SNS採用で意識すべきポイント
SNS採用がなかなか軌道に乗らない、目に見えた効果が得られない場合、次に紹介する4つのポイントを意識してみてください。
- データの収集・改善
- SNSツールの強みを活かした魅力訴求
- 候補者を応募に繋げる
- ターゲットに合ったSNSツールを使う
配信後のデータの収集・改善
中には、コンバージョン率やインプレッション数を確認できるSNSツールもあります。各数字を分析することで、ユーザーが欲している情報やアクセス率の高い時間帯などを把握できます。
数字から導き出した情報をもとに、コンテンツ内容や配信スケジュールを軌道修正することで、少しずつSNS採用の効果を実感できるようになるでしょう。
SNSツールの強みを活かした魅力訴求
SNS採用では、常に転職希望者が求める情報発信を心がけなければなりません。
他の求人媒体やコーポレートサイトでは知り得ないような、企業の『リアル』を発信できるコンテンツを意識しましょう。
働き方・社風・ビジョンは、応募者が志望動機を考える上で参考になる情報です。また魅力的な働き方・社風・ビジョンの発信は、転職潜在層のファン化にも一役買います。
次の投稿チェックに繋がるようなユーザー(求職者・応募者)の目線を意識した情報を発信することで、フォロワーの数も増え拡散力・運用力も高まるでしょう。
候補者を応募に繋げる
SNS採用の位置づけにもよりますが、転職希望者がSNSの閲覧・チェックで留まっている状態では、採用には至りません。
SNSツールは採用媒体ではないため、転職希望者を応募に繋げる導線作りも必要です。
例えば、投稿に求人媒体や採用サイトの応募リンクを貼る、カジュアル面談や社内見学実施の情報をアップするなども方法の1つです。
次の接点機会を意識的に紐づけることで、“候補者”で留まっていたユーザーを応募に繋げられるでしょう。
ターゲットに合ったSNSツールを使う
手順の項目でもお伝えしましたが、ターゲットに合ったSNSツールの活用は、SNS採用において肝となるポイントです。
SNSツールには、テキスト・動画・画像など発信主軸が異なります。さらにやり取りの密度もツールごとに差があります。
日本では、多様なSNSツールが活用されていますが、利用者の年齢層もSNSツールによって異なります。
下記は総務省が発表した主なソーシャルメディア系サービス/アプリ等の利用率です。
参考:総務省『令和3年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査』
上記データから、20代はTwitter、Tik Tok、Instagramなどの利用率が高い一方で30代はFacebookが他の年代の中でトップの利用率でした。40代以降はLINEとYou Tubeを除き、年齢を重ねるにつれ各SNSの利用率が低下しています。
本調査では対象になっていませんが、ビジネス系SNSツールのLinkedInは、30代・40代の利用者が多く、キャリアの方向性がある程度定まっている30代・40代に対してはLinkedInの活用も有効であると考えられます。
主要年代 | 特徴 | 強み | |
---|---|---|---|
20代・30代 | テキスト | テキスト発信という手軽さと、20代において他のSNSツールと比較して高い利用率を誇る | |
Tik Tok | 20代 | 動画 | 動画というリアル性の高い発信力は残しつつ、動画の作り込み工数を削減できる |
20代・30代 | 画像 | ビジュアルに特化した発信を強みとし、ファン化させやすい | |
30代 | テキスト 画像 | 写真とテキストをバランスよく発信できる | |
YouTube | 20代・30代・40代 | 動画 | 自社の認知が届いていない層にも充実した企業魅力・情報を発信できる |
30代・40代 | テキスト 画像 | ビジネス系SNSのため、ハイクラス・外資系パーソンの利用者も多い | |
LINE | 30代・40代 | テキスト 画像 | 1対1のやり取りができるため、応募に繋げやすい |
SNS採用がマッチする企業の特徴
必ずしもSNS採用が自社にマッチした手法であるとは言い切れません。採用ターゲットや戦略によっては、他の手法のほうが高い成果を得られることもあるでしょう。
SNS採用がマッチする可能性の高い企業の特徴は次の3つです。
- SNSと親和性の高い人材の採用を考えている企業
- 採用コストを抑えたい企業
- SNS発信をすることで企業魅力を高められる企業
1つでも当てはまるのであれば、ぜひ運用を開始してみてはいかがでしょうか。
SNSと親和性の高い人材の採用を考えている企業
SNS採用は、候補者がSNSユーザーであることが前提です。そのため40代・50代より20代のような若年層をターゲットにした場合に運用したほうが、効果を実感しやすいでしょう。
ポテンシャル重視・若年層中心の採用を検討している場合は、SNS採用を運用することで一定の効果を見込めるのではないでしょうか。
採用コストを抑えたい企業
SNS採用のメリットは無料で運用できる点です。
採用になかなかコストをかけられない企業でもSNS採用を上手に活用し、求人媒体や採用ページに繋げることで、他の採用手法との相乗効果を期待できます。
コンテンツ内容や運用方法次第で大きな成果を見込めるため、採用にコストをかけられない企業はSNS運用に挑戦してみるのも良いでしょう。
SNS発信をすることで企業魅力を高められる企業
SNSはその強みを活かすことで求人媒体では発信できない自社の魅力を幅広い人材・層に発信できます。
例えば、ビジュアル要素を活かしたInstagramで自社商品を魅力的に発信することでファンを増やすことができるでしょう。またTik Tokでは、自社の社員の様子を定期的にアップすることで社風や働く雰囲気を伝えることができます。
ニッチな事業を展開している場合、Youtubeを活用すれば、自社の理解度が浅い人にも充実した情報を広く発信できます。
SNS採用の将来性
SNS採用を導入するにあたり、手法の将来性が気になるという企業・人事ご担当者様も少なくないでしょう。
結論から申し上げると、SNS採用はさらにその需要を増すと考えられます。
SNS採用の将来性が期待できる理由を、SNSの利用者年代と入職経路の満足度から解説します。
『SNSの利用者年代』から導く、SNS採用の将来性
ITエンジニア・クリエイター・ゲーム制作者に絞った調査になりますが、株式会社ギークリーが転職希望者を対象に行った『転職活動におけるSNSの利用状況アンケート調査』によると、「転職活動の情報収集にSNSを使うか」という問いに対して、「使う」と回答した割合は、各年代別次のような結果となりました。
- 20代:64.5%
- 30代:51.0%
- 40代:46.7%
参考:株式会社ギークリー
40代以降は半数に満たないものの、30代では50%を超え、20代では65%近くが利用しています。
今後ITリテラシーの高い世代やSNSに抵抗のない世代が中途採用の中心対象になってくることを考えると、3年後・5年度のSNS採用の需要はさらに高まるであろうと推察されます。
『入職経路の満足度』から導く、SNS採用の将来性
リクルートワークス研究所が行った『入職者の求職行動に関する調査』によると、SNS採用で入職した人の満足度は、人材紹介会社に次いで2番目に高い結果になりました。
また「以前よりも悪くなった」と回答した割合は、具体的な手法の中で一番低い結果となっています。
参考:リクルートワークス研究所『求職トレンド調査 2017』
上記満足度の高さから、入社後の定着率も高いであろうと推察されます。
そのため、転職者のみならず企業側にとってもSNS採用の運用は社員の定着率・ミスマッチ防止にも寄与していることが伺え、その効果からも継続してSNS採用を行う企業・これからSNS採用を始める企業が増えていくと考えられます。
中途SNS採用 まとめ
ITリテラシーが高まるこの時代においては、積極的な情報発信も採用戦略において重視されつつあります。
ただし、自社の採用戦略やターゲットを明確にし、各SNSの強みを理解した上で適切に運用しないと逆効果になってしまったり徒労に終わる可能性もあります。
とは言え、無料で始められるのもSNS採用の大きなメリットの1つです。SNS採用に興味をお持ちの企業・人事ご担当者様は、本記事で紹介した手順・ポイントを意識した上で、ぜひ取り組んでみてください。
取り組み次第では、新しい自社採用の手法として、大きな成果を得られるかもしれません。