採用の軸となる『採用計画』は、採用活動の道筋を明確にし、効率的かつ成果をもたらす採用をする上でも欠かせません。
さらに採用市場の変化や人材流動の激化に伴い、「単に採用する」だけではなく、「入社後のコストパフォーマンス」や「最適配置」といった、入社後の活躍も考慮しなければなりません。
しかし目先の課題にばかり追われ、せっかく策定した採用計画が意味を成さないケースも散見されます。
本記事では100社以上の採用をみてきた筆者が、採用計画の策定に向けて把握しておくべき情報や策定手順をはじめ、採用計画が計画通り進まない要因や改善のポイントをお伝えします。
- 中長期的な視点からの採用計画策定のポイントを知りたい
- 採用計画通り進まない現状を改善したい
- 新卒採用と中途採用の採用計画の違いが分からない
上記のようなお悩みを持つ企業様・人事ご担当者様はぜひご一読ください。
採用計画とは何か?
『採用計画』とは、「採用活動の道筋となる計画」のことです。
具体的には、下記5つの項目を経営方針や事業計画を交えて策定することです。
- いつまでに
- どのような人材が
- 何人ほど
- どのような理由で
- どの部署(チーム)に
次の項目でも紹介しますが、採用計画を策定することで採用手法や媒体の選定はもちろん、採用活動にどれぐらいの人手や予算を割くべきかも明確にすることができます。
なぜが採用計画必要なのか?採用計画の“重要性”
採用計画を策定するにあたり、採用計画の重要性の理解は欠かせません。
筆者が採用支援を行う中でも、意外にもその重要性を理解していない企業様・人事ご担当者様は少なくありません。
採用計画を策定することで、次のような効果が期待できます。
- 採用活動の道筋を作る
- 自社にマッチした人材を採用しやすくなる
- 採用進捗を図りやすくなり、採用活動の軌道修正ができる
まずは採用活動を行う上で採用計画がどれほど重要なものなのか、理解を深めましょう。
採用活動の道筋を作る
採用計画を策定することで、採用活動の道筋が明確になります。
つまりゴールやゴールまでの各プロセスの目標が可視化され、目指す方向性や現状の課題が見えてきます。
闇雲に採用活動を行うよりも、効率的かつ有益な活動を推進できるようになるでしょう。
自社にマッチした人材を採用しやすくなる
採用計画を策定する際には「どのような人材」「どこの部署(チーム)」「どのような理由」を決めることになります。単純ではありますがそうすることで採用部署・面接官・役員・現場のベクトルが合致し、どのポジションのメンバーが候補者と接しても同じターゲット層を内定に導いていけるようになります。
自社にマッチした人材の採用は、事業成長・促進の上で必要不可欠です。また自社にマッチする人材ほど、就職後の早期離職のリスクを減退させ長く活躍してもらえる可能性が高まります。
実際に採用部署・面接官・役員・現場の方向性や採用したい人物像がバラバラだった企業が、採用計画を策定しゴールを各々のイメージではなく文字や数字に置き換えることで、事業や現場に沿った採用が実現した例もあります。
採用進捗を図りやすくなり、採用活動の軌道修正ができる
採用計画は、設定したゴールやスケジュールを基に書類選考や面接など各プロセスにおいても細かく目標を設定していきます。
そのため、スモールステップで目標の達成率を把握でき、進捗を把握しやすくなります。
また現状との乖離も即時に確認できるようになります。そのため万が一、活動下において大きな乖離がある場合は、即座に採用活動の軌道修正を図れるようになります。
採用計画を策定する上で把握すべき情報
採用計画は主に次の情報を基に策定していきます。
- 経営戦略や事業計画
- 採用市場情報
- 採用競合の動向
- 現場の希望
- 自社の採用実績
本項目では採用計画策定において、なぜ上記情報が必要なのか解説します。
経営戦略や事業計画を知る
採用計画を立案する際に最も重要なポイントは、経営方針や事業計画などのビジネス戦略を包含して計画を立てることです。
経営方針や事業計画を把握しないまま、採用計画を立ててしまうと必要以上の人数を採用してしまう、適切な配置が行われずミスマッチが生じるなどの害悪が発生し得ます。
採用市場情報を集める
採用市場全体の動向はもちろんですが、業界や採用したい人材の年齢層などマーケットやターゲットに絞った動向を把握し、自社を客観的に分析することも忘れてはいけません。
人材の流動性・中途採用市場は、景気やトレンドによって大きく左右されます。
また採用市場の動向を把握することは、求職者の転職意向の把握にも繋がります。
例えば、コロナ以降WEB面接が一般化した今、一次面接の形態を対面からオンラインに変更することで、応募者が増えより多くの候補者の中から自社にマッチする人材を選べるようになったという企業もあります。
このように求職者の動き・考え・ニーズを採用計画に反映させることで、より成果を期待できる活動が叶うでしょう。
採用競合の動向を探る
有能な人材を獲得するためには、採用市場を把握するだけではなく、競合他社の動向も把握しておかなければなりません。
採用競合の把握は、自社の強みや訴求ポイントを知る上でも欠かせません。また採用競合と自社を比較することで、弱みや課題も見えてくるはずです。
採用競合の情報を集める時は、同業種の他に企業規模・同エリア・ターゲット層など多角的に調査すると、中途市場下における自社の立ち位置が明確になるでしょう。
現場の希望を把握する
採用計画を策定する上で、現場の希望も大切な情報の1つです。
現場の希望をヒアリングせず、採用を進めてしまうと技術不足・人柄のミスマッチ・採用人数の過不足などあらゆる問題の発生が懸念されます。
筆者の経験からも、現場社員の採用計画策定ミーティングへの参加、現場社員への希望ヒアリングは是非とも取り組んで頂きたい活動の1つであると言えます。
採用部署と現場との認識が擦り合い、離職率が軽減された・新入社員の高いパフォーマンスの発揮されたなど、事業を推進する上で様々な恩恵を享受できるはずです。
自社の採用実績を把握する
自社の採用実績の把握は、採用計画をより現実ベースで進める上で欠かせない情報です。
過去に同じ職種の採用を試みた実績がある場合、当時の課題や成功事例の把握に努めましょう。
しかし中途採用の場合は、採用期間が短く下準備に割ける時間がないケースもあるでしょう。上記で紹介した情報収集に時間を費やせないケースも、往々にして起こり得ます。
より有益な採用活動を行うには、日ごろからの情報収集が欠かせません。
人事ご担当者様は、日頃から現場が欲している人材・市場や採用競合の動向にアンテナを張り、自社の採用活動に落とし込める情報のキャッチアップに努めましょう。
採用計画立案の手順
上記で紹介した情報の準備が整った後は、実際に採用計画の立案に移ります。
本項目では、最もベーシックな手順をご紹介します。
- KGIの立案
- ペルソナの設定
- 採用スケジュールの設定
- 採用予算・リソース人員の調整
- 採用手法の選定
- 採用計画の再確認
筆者が採用支援を担当した企業様も、上記手順をベースに適宜自社のニーズや課題に対して肉付けをしながら採用計画の推進をされております。
➀KGIの立案
まずは採用活動のゴールとなるKGI(重要目標達成指標)を設定しましょう。
KGIを設定する際に必要になる項目は、本記事の冒頭でもご紹介した次の5つとなります。
いつまでに
どのような人材が
何人ほど
どのような理由で
どの部署(チーム)に
これらは、採用計画を策定する際の基盤になるため、『採用計画を策定する上で把握すべき情報』で紹介した各情報を加味しながら設定していきましょう。
➁ペルソナの設定
中途採用の場合は、スキルや経験を重視する採用が大半です。
ポテンシャル採用が中心となる新卒採用と違い、求める人物像を明確化し現場・採用部署共に認識のズレがないようにしていきます。
さらにどのような人物を採用したいのかペルソナを設定し具現化しておくと、採用手法や利用媒体、採用戦略なども設定しやすくなります。
➂採用スケジュールの設定
採用のゴール及びペルソナの設定後は、採用スケジュールの策定に移ります。
採用活動は「募集」「選考」「内定」の3つのフェーズに分けられます。先に設定したゴール(KGI)から逆算し、各フェーズをいつまでに終わらせておくべきなのかを思案しながらスケジュールを組み立てていきましょう。
下記は筆者の経験に基づく、スケジュール策定例です。
例えば母集団形成を行うにあたって苦戦が予想される場合は、募集期間を早める・募集期間を長くするなどの対策が必要です。反対に人気職種の場合、手広く応募を募る・募集期間を長くすると応募者が増えすぎて選考に時間がかかってしまいます。
また早急に人員が必要な場合は、選考ステップを減らす・選考期間を短くするなどの調整を行いましょう。
➃採用予算・リソース人員の調整
採用手法の多様化・人材獲得競争の激化に伴い、人材の獲得には多額の費用・工数がかかるようになりました。
とはいえ、闇雲に予算と人員を投下するわけにはいきません。
高いコストパフォーマンスを実現するためにも、ゴールから逆算した予算・人員の調整は必要です。
なお、このタイミングで現場や他部署からどれくらい人員のヘルプを得られるのかを確認しておくのも良いでしょう。また適切な人材に面接官を任せられるよう、面接官の人選・スケジュール調整も平行して進めておくことをおすすめします。
➄採用手法の選定
求める人材の特性や採用目標・スケジュールに合わせて採用手法を選定します。
主な採用手法は次の通りです。
- 自社の採用サイト
- ソーシャルリクルーティング
- 求人広告
- スカウトサービス
- 人材紹介会社
- 転職フェア
- 合同企業説明会
- リファーラル採用(社員からの紹介)
- ミートアップ など
さらに手法ごとに使用ツールや媒体の選定も必要です。
1つひとつゴール(KGI)を指針に、選定を進めていきましょう。
⑥採用計画の再確認
一通り採用計画の策定が完了した後は、策定した採用計画の再確認を行います。
- スケジュールは厳しくないか
- コストのかけ方は適切か
- 採用計画に対して必要な人手は確保できているか
- 採用したい人材は、事業計画・現場ともすり合っているか
- 手法や戦略は適切か
可能であれば、経営戦略や事業計画・現場に関わるメンバーも含め最終確認を行いましょう。
計画通り採用が進まない要因
手順通り採用計画を策定したものの、『計画通り採用が進まない』と悩むケースも少なくありません。
計画通り採用が進まない主な要因は次の4つです。
- 経営方針や事業計画などのビジネス戦略を鑑みた策定がなされていない
- 採用計画の見直しが出来ていない
- 最新の数字で進捗を追えていない
- PDCAを回せていない
経営方針や事業計画などのビジネス戦略を鑑みた策定がなされていない
筆者がこれまで採用を支援した企業様の中には、採用のみが独立した計画を設計している企業様も少なくありませんでした。
採用活動を進める上で計画の立案は欠かせません。しかし経営方針や事業計画を交え組織として一本化された計画でないと、採用後の配置を適切に行うことができません。結果、パフォーマンスの低下や早期離職に繋がってしまいます。
採用計画の見直しが出来ていない
中途採用においては採用予定人数や配置予定部署が変わったなど、現場との兼ね合いで常に求められるゴールが変動します。
ゴールが変わったのにもかかわらず、採用計画の見直しが行われない場合、計画の破綻やあらぬ方向に活動のベクトルが向いてしまう可能性も考えられます。
また採用活動を始めたものの、募集や選考のタイミングで実情と計画に大きな乖離が発生するケースもあります。
そのような場合も即座に計画を見直し、手法や戦略を変更・加減していく必要があります。
最新の数字で進捗を追えていない
期間や人数、推移率など採用計画ではあらゆる数字を把握しておかなければなりません。
そのため、確認すべき数字は常に最新の情報にしておくよう心がけましょう。
数字管理が煩雑、最新情報の把握に時間がかかる場合、管理する数字や管理方法を改める必要があるかもしれません。
PDCAを回せていない
先述の採用計画の見直しとも重複しますが、採用活動を進めていくと現状との乖離が発生することもあります。
その際は、都度課題の究明に努め「なぜ乖離が発生するのか」を把握しましょう。さらに、計画と実情の乖離を最小限に留められるよう、改善に向けて新しい施策や手法の導入を進めていきましょう。
新卒採用と中途採用の採用計画の違い
新卒採用と中途採用では、採用の目的・求める人材・期間が大きく異なります。
そのため、採用計画を策定する流れは同じですが、それぞれの特徴を踏まえたスケジュール・選考プロセス・手法の策定・選定が必要です。
新卒採用
新卒採用は中途採用とは違い、入社に至るまで長い期間を要します。また中途採用よりも多くの応募者と相対しなければならないため、余裕を持った計画を立てることがポイントです。
さらに新卒採用の特徴として、内定辞退率が高いことが挙げられます。
株式会社リクルートが2022卒業予定の学生を対象に行った『就職プロセス調査 (2022年卒)「2021年9月1日時点 内定状況」』によると、9月1日時点の辞退率は62.1%と約6割の学生が内定を辞退していました。
一方、株式会社マイナビが行った『中途採用状況調査』によると、中途採用(2021年)の内定辞退率は11.0%であり、約1割の求職者が内定を辞退しているとのことです。
参考:株式会社リクルート『就職プロセス調査 (2022年卒)「2021年9月1日時点 内定状況」』
参考:株式会社マイナビ『中途採用状況調査2022年版(2021年実績)』(P.53)
内定辞退率の高さや内定から入社までに長い期間を要する点を鑑みることはもちろん、社会人としてのスタートに不安を感じる学生も少なくありません。そのため定期的なコミュニケーションや内定までのフォロー施策も、計画に盛り込む必要があるでしょう。
中途採用
中途採用は、新卒採用のように事前に期間が明確に定められているわけではありません。
発生ベースで活動がスタートする場合が多いため、ゴールからスピード感のある採用が叶うよう逆算して計画を立てなければなりません。
突発的な採用要請に対し、自社のリソースだけでは活動を推進しきれないケースもあるでしょう。そのような場合は、採用代行や採用コンサルティングなど外部サービスを導入するのも1つの方法です。
筆者の経験からも、特に自社に採用ノウハウがない職種の場合、外部の知見やノウハウを借りることをおすすめします。効率的かつ無駄のない採用活動が叶うだけではなく、自社のノウハウ蓄積に寄与した事例も多分にあります。
中途採用市場の活性化に伴い、優秀な人材の確保は困難を極めつつあります。
自社で採用活動の全てを賄うのではなく、状況に応じて外部サービスの活用を検討してみましょう。
【まとめ】中途採用における採用計画策定
採用活動において『採用計画』は、失敗のリスクを下げ効率的な採用を促す重要な活動・戦略の指針です。
採用計画の策定においては、市場動向の把握はもちろん、入社後の活躍やチームメンバーの満足度なども含め長期的な視点で立案することが肝要です。
さらに活動終了時には、次回の採用に活かせるよう一連の計画を振り返りましょう。
そうすることでより精度の高い採用活動を実現でき、さらには事業発展にも寄与することでしょう。