少子高齢化に伴う労働人口の減少や転職に対するイメージがポジティブなものになりつつある昨今において、一昔前と比較して転職のハードルはぐっと低くなりました。
1人あたりの転職回数も増えており、一概に転職回数の多さをネガティブに捉えることはできなくなりました。
しかし数回の面接だけでは、候補者の人となりを把握することは難しく、入社後にミスマッチを生じさせてしまう懸念も考えられます。また即戦力を求める傾向の強い中途採用では、前職でどのようなパフォーマンスを発揮していたかなどの情報を得ておきたいと考える企業も多いかと思います。
そこで今回は、これまで150社以上の採用をサポートしてきた筆者が、日本でも少しずつ注目を高めている『リファレンスチェック』について解説したいと思います。
リファレンスチェックの概要や導入割合などの他、メリットや目的なども紹介します。
- 自社にリファレンスチェックを導入するメリットがあるのか図りたい
- 採用した人材の能力をフルに活かすためにできることを模索している
- リファレンスチェック導入の流れや具体的な質問例を知りたい
上記に該当する、企業・人事ご担当者様はぜひご一読ください。
リファレンスチェックとは?概要と質問例
まずは、リファレンスチェックの概要とリファレンスチェックの質問例を紹介します。
リファレンスチェックの概要
リファレンスチェックとは、候補者の勤務態度・就業状況・人柄などの情報を候補者と過去共に働いたことのある第三者に情報の提供を求める行為を指します。
書類選考や面接だけでは分からない情報を取得することで、選考時の合否判断にする情報を増やすことが目的です。
リファレンスチェックで情報提供を求める第三者は、前職や現職の上司であることが一般的です。しかし候補者の意向や情報提供者の都合によって同僚・部下・取引先などになるケースもあります。
ただし多くの場合、採用時の合否判断の材料の1つとして使用するため「候補者の働きぶりや人物像をよく知る人」であることが重視されます。
リファレンスチェック 質問例
リファレンスチェックの際に用いられる質問は、大きく下記4つに区分されます。
- 勤務状況(態度)に関する質問
- 候補者の人柄・人物像に関する質問
- 候補者の経験値に関する質問
- ポジション・職種に関する質問
本項目では、実際に用いられる質問例を紹介します。
<勤務状況(態度)に関する質問例>
- 在籍期間に間違いはないですか。
- 勤務態度は良好でしたか。(度重なる遅刻・早退・欠勤はなかったか)
- 退職理由に相違はないですか。
履歴書などに記載されている事実と相違がないかを確認する質問が中心です。
<候補者の人柄・人物像に関する質問>
- 同じ部署のメンバーとのコミュニケーションは良好でしたか。
- 候補者は一言で表すとどんな人物でしたか。
- また一緒に働きたいと思いますか。
- 候補者に関する印象に残っているエピソードはありますか。
履歴書や職務経歴書では分からない、候補者の人柄・人となりについて確認する質問が中心です。「はい・いいえ」で答えられるような質問より、幅広い回答が得られるようオープンクエスチョンを用いる点がポイントです。
<候補者の経験値に関する質問>
- 最も会社への貢献度が高かった実績・数値は何ですか。
- 候補者の具体的な職務責任は何でしたか。
- 候補者の強み・弱みは何だと思いますか。
採用後のポジションと照らし合わせながら、求める経験が備わっているのかを確認する質問を中心に用意しましょう。
<ポジション・職種に関する質問>
- 管理職・マネージャー採用時の質問例
- 部下の成果を高めるために、候補者が取り組んだ施策を教えてください。
- 候補者はプレイヤーとマネージャーどちらに向いていますか。
- 技術職採用時の質問例
- 候補者が自身のスキルを高めるために取り組んでいたことを教えてください。
- 複数の納期重複やタイトな締め切りに対し、候補者が工夫していたことを教えてください。
- 営業職採用時の質問例
- 顧客との関係性はどうでしたか。
- 顧客からクレームを受けた時、どのような対応を心がけていましたか。
採用後のポジション・職種と照らし合わせながら、知りたい人柄や経験を確認する質問を用意しましょう。
リファレンスチェックの認知・実施の割合
続いて、外資系・グローバル企業の求人・転職エージェントen worldが実施した『中途採用における、リファレンスチェック実施状況調査』の資料を用いてリファレンスチェックの認知・実施の割合を紹介します。
リファレンスチェックの認知率は、次の通りとなりました。
- 外資系企業(内容も知っている):93%
- 日系企業(内容も知っている):73%
引用:外資系・グローバル企業の求人・転職エージェントen world『中途採用における、リファレンスチェック実施状況調査』
外資系企業のほうが日系企業を20ポイント上回る結果になりました。日系企業も「聞いたことはある」という回答を含めると、おおよそ9割近い企業で認知されていることが分かります。
またリファレンスチェックの実施率は、次の通りの結果となりました。
- 外資系企業:58%
- 日系企業:23%
引用:外資系・グローバル企業の求人・転職エージェントen world『中途採用における、リファレンスチェック実施状況調査』
海外では、リファレンスチェックが一般的に行われていることから認知・実施率ともに外資系企業のほうが大きく上回る結果となりました。
日系企業の実施率は高くはないものの、5社に1社の割合で実施しています。先に紹介したリファレンスチェックの認知率の高さ、さらに転職市場が活性化している背景もあり、今後リファレンスチェックを実施する企業は増えてくると予想されます。
リファレンスチェックとバッググラウンドチェックとの違い
リファレンスチェックと似た調査に『バッググラウンドチェック』があります。
両者には明確な違いがあるため、混同せずに使い分けることが肝要です。
先述の通りリファレンスチェックでは、主に候補者の人間性・働きぶり・実績などの情報を取得するための質問が行われます。採用することで企業にどのようなメリットがもたらされるのか、またどのようなポジションに配属することでポテンシャルを最大化できるのかを判断することを目的に実施されます。
一方、バックグラウンドチェックは、経歴詐欺・金銭トラブル(自己破産歴)・反社会的勢力などの有無を調べる身辺調査のことを指します。
候補者を採用することにより企業に不利益がもたらされることを回避することが主な目的です。
リファレンスチェックとは異なり、多くの場合、専門の調査機関に調査を委託します。
リファレンスチェックを実施するメリット
リファレンスチェックを実施することで企業が得られるメリットは次の3つです。
- ミスマッチ防止
- 人柄や仕事への取組み態度を選考評価に加えられる
- 申告漏れの発覚
ミスマッチ防止
リファレンスチェックは、ミスマッチ防止に大きく寄与します。
候補者によっては履歴書・職務経歴書に記載している内容を過大記載したり事実を偽装するケースもあります。そのため時には「期待したほどの能力ではなかった」「スキルや経験が足りない」という事態に直面する可能性もあります。
リファレンスチェックを行うことで、候補者のスキルや経験情報のギャップや祖語を埋められるため、採用後にミスマッチが発覚する事態も防げるでしょう。
人柄や仕事への取組み態度を選考評価に加えられる
内定出しの前にリファレンスチェックを実施しておけば、人柄や仕事への取組み態度を選考評価に加えられるようになります。
選考や面接だけでは、候補者の人柄を全て理解することは難しいでしょう。またどのように仕事に取り組むのかは、入社後初めて知ることができます。
リファレンスチェックでは、不足情報について客観的な回答が得られます。面接で感じた人柄・期待する働きぶりと大きな差異が生じていないかも確認できるでしょう。
申告漏れの発覚
リファレンスチェックでは、候補者の申告漏れ・申告間違いを訂正する役割も果たします。
候補者が意図せず申告しない、あるいは事実と相違のある内容を意図せず申告しているケースもあります。「休職や産休・育休などをつい申告し忘れていた」「入社時期などを間違えて申告してしまった」などの事例は珍しくありません。
リファレンスチェックを実施することで、間違いを正し事実を明確にできます。
リファレンスチェックを実施するデメリット
一方でリファレンスチェックを実施する際、デメリットに感じられる一面もあります。
リファレンスチェックを実施する際に生じるデメリットは次の通りです。
- 回答の信憑性を判断しづらい
- リファレンスチェックを断られる可能性がある
- 時間・手間・費用がかかる
リファレンスチェックの導入を検討している企業・人事ご担当者様は、デメリットについても理解を深めておきましょう。
回答の信憑性を判断しづらい
リファレンスチェックの質問に回答する第三者の属性・関係性によって、回答に偏りが生じる可能性も考えられます。
そのため、一般的には2人以上から回答が得られるよう、調整します。
またリファレンスチェックは、候補者からリファレンスチェック回答者に直接依頼を行います。候補者と回答者の関係性が良好である場合、候補者の選考が有利に進むよう回答内容を調整する懸念も考えられます。
あくまでも“選考合否を判断する材料の1つ”という位置づけで導入しましょう。
リファレンスチェックを断られる可能性がある
時には、候補者もしくは回答依頼者どちらかからリファレンスチェックを断られることもあります。
候補者からリファレンスチェックを断られた場合は、理由を確認しましょう。回答を頼める人がいない場合は、前職のメンバーと良好な関係性を築けていないケースやトラブルで退職した可能性が考えられるでしょう。
しかし中には前職で不当な扱いを受けていたり、在籍期間が短いなど、配慮すべき事由の場合もあるでしょう。そのような場合は、体験入社や適性検査などリファレンスチェックに代わる評価を実施しましょう。
また回答者がリファレンスチェックを断るケースもあります。
個人情報取り扱いが厳しくなっている昨今、リファレンスチェックを断る体制になっている企業も少なくありません。
このような場合も、リファレンスチェックに代わる評価の実施を検討しましょう。
時間・手間・費用がかかる
もちろんリファレンスチェックを実施する場合は、プラスアルファの時間・手間・費用がかかります。
全候補者に対し実施していたのでは、膨大な時間・手間・費用がかかってしまうでしょう。
費用や時間を削減したい企業は、最終面接前後に実施することをおすすめします。最終面接前後であれば、候補者の人数も数名程度に絞られているため、リファレンスチェックにかかるコストや時間も軽減できるでしょう。
リファレンスチェックを実施するタイミング
リファレンスチェックを実施するタイミングに迷う企業・人事ご担当者様も少なくないでしょう。
ここでは、データから一般的なリファレンスチェックの実施タイミングを紹介します。
既にリファレンスチェックを導入している企業では、リファレンスチェックを下記タイミングで実施しているとのことでした。
- 一次面接の後:6%
- 二次面接以降~最終面接の前:22%
- 最終面接の後:62%
引用:外資系・グローバル企業の求人・転職エージェントen world『中途採用における、リファレンスチェック実施状況調査』
日系企業・外資系企業問わず、最終面接後に実施する企業が割合の多くを占めました。しかし必ずしも最終面接後が適切なタイミングとは限りません。
採用ポジションや他の候補者との比較、採用時期などを加味した上で自社にとって適切なタイミングで実施しましょう。
しかし、リファレンスチェックの結果をもとに内定を取り消すことはできません。労働契約上、内定取り消しは「解雇」に該当します。
合理的かつ客観的、さらには社会通念上相当と認められない限り解雇はできません。
合否判断にリファレンスチェックを用いたい場合は、遅くても内定出しの前(最終面接合格連絡前)に実施するようにしましょう。
リファレンスチェックを実行する際の流れ
リファレンスチェックを実行する際の流れは、次の3ステップです。
- 候補者にリファレンスチェック実施の合意を得る
- 候補者からリファレンスチェック回答者に依頼をする
- 回答の回収・回答内容の検証
候補者にリファレンスチェック実施の合意を得る
個人情報保護法上、リファレンスチェックは候補者の同意なしに実施できません。
また候補者からは次の3つの同意を得る必要があります。
- リファレンスチェックを実施する目的への同意
- リファレンスチェックの質問を通じて、既に開示している情報以外の個人情報を得ることに対する同意
- リファレンスチェックを回答してもらう人物の情報を共有してもらうことに対する同意・承諾
合意を得た際は、必ず書面で残すようにしましょう。
候補者からリファレンスチェック回答者に依頼をする
リファレンスチェックはWordやExcelなどに質問をまとめた資料を回答者に送付し、回答を記載の上返信してもらう方法と、電話やWeb会議ツールなどを用いて人事担当者から回答者に質問を行う方法があります。
前者の場合は回答依頼承諾後に、人事担当者から回答者に質問データを送付します。
後者の場合は回答者の連絡先を教えてもらい、リファレンスチェックを実施する日を調整します。
回答の回収・回答内容の検証
最後に回答を回収し、回答内容を検証します。
採用に関わるメンバーだけではなく、入社後の上司やメンバーも確認できるよう正確に情報をまとめておきましょう。
リファレンスチェック 実施方法まとめ
リファレンスチェックは、応募書類や面接だけでは知り得ない人柄や仕事への姿勢など、合否を判断するための情報を収集するための調査のことを言います。
また雇用後のミスマッチや経歴詐称の防止も期待できます。さらに活用次第では候補者のオンボーディングにも有効性を発揮する施策と言えるでしょう。
採用活動は、採用した人材が自分らしく働き活躍してこそ初めて“成功”と言えるでしょう。リファレンスチェックは、そんな採用成功を叶える手段の1つです。
入社後のミスマッチを防止し、仕事への満足度を高めることができれば、人材流出防止にも効果が現れてくるかもしれません。